フェルメールの「牛乳を注ぐ女」と「青いターバンの少女」
2007年に新美術館で開催された、フェルメール「牛乳を注ぐ女」とオランダ風俗画展は、フェルメールの絵の展示は「牛乳を注ぐ女」一点だけでした。
「牛乳を注ぐ女」は、8号キャンバスに描かれたもので小さな絵でした。絵を鑑賞するにはそれなりに近づかないと鑑賞したことになりません。その絵に近づいたり、離れたり、首を捻ったり、目を細めたり、時々、腕を組んだり、沈思黙考して観るものなのです。
ところがこの展示は、絵の横に睨みをきかせたガードマンがいて、フェルメールの絵と私達(鑑賞者)はちょうどダーツをする距離に隔てられ、これまたダーツをするが如く身を乗り出して鑑賞するという、鑑賞というには程遠いものでした。
でも仕方ありません。350年も前に描かれた貴重な絵だし、本物を遠くから観ることが出来るだけでも貴重でありがたいことなのです。
そして2012年1月に開催された銀座フェルメール・センター銀座で展示された、福岡伸一さん監修の「フェルメール光の王国展」を観ました。(フェルメール光の王国は、福岡伸一さんの本の題名にもなっています。※福岡伸一さんはベストセラー「動的平衡」と「生物と無生物のあいだ」の著者です。)
この展覧会は、「re-create」リ・クリエイトと呼ばれる当時の色彩を再現した複製画の大展覧会で、存在するフェルメールの絵が37点の展示でした。見終わって私は大満足でした。近づいても誰も文句はいわないし、カメラでも携帯でも自由に写真が撮れました。
●フェルメールの絵の面白さのポイント
「牛乳を注ぐ女」の絵のポイントは、絵の中に配置された机、窓辺など、カメラ・オブスキュラ(写真の原理で投影像を得る装置)を使って遠近感を正しくリアリティに描いていることです。今風に言えば、透視図技法が絵に使われて、350年前に描かれた絵とは思えない、いい意味で構図は写真のように正確です。
●もう一つは、フェルメールの青(ラピスラズリ)について
「真珠の耳飾りの少女」「青いターバンの少女」と呼ばれる有名な絵があります。このターバンの青がラピスラズリという鉱物が使われていて「ラピスラズリ」の名が有名になりました。青には2系統あり、ウルトラマンブルー系とセルリアンブルー系で、ウルトラマンはマダー(ピンク系)が入った青、セルリアンはイエローが入った青になります。フェルメールの青はウルトラマンブルーで、ラピスラズリの色です。同時期に描かれた「牛乳を注ぐ女」の青も印象に残るウルトラマンブルーです。
2003年の映画「真珠の耳飾りの少女」では、フェルメールと真珠の耳飾りの少女との交流が描かれていますが、その中でラピスラズリを粉々にすりつぶしてブルーの顔料を作っている様子と、カメラ・オブスキュラを覗くシーンが描かれています。
●実物の絵を観ての印象
「光の粒立ちは時を止めて、何が周りに起ころうと静謐そのもの」が絵を見終わっての印象です。フェルメールの解説にはどれを読んでも静謐という言葉が出てきます。誰もが感じるこの静謐さがピッタリこころにフィットします。もしかしたらこの正確な構図の遠近感が実風景と違わないから、違和感もなくなり、落ち着いた気持ちにしてくれるのかもしれません。
●「牛乳を注ぐ女」の絵画を立体視画像にする
この正確な遠近感!を立体視画像で確かめたく、「牛乳を注ぐ女」の絵画を、立体視画像に加工してみました。「平行法と交差法」両方で見られるように、2点用意しました。
ぜひ、静謐な空間を確かめてみてください。
★平行法で立体視
交差法で立体視
余談
フェルメールの「窓辺で手紙を読む女」が修復完了とのニュースがつい最近ありました。この作品は、背景になる壁にキューピッドの描かれた画中画が塗りつぶされていることが判り、フェルメール本人による塗りつぶしと考えられて来ました。しかし調査の結果、これは他の人物によって行われた塗りつぶしと判明し、2018年から修復が行なわれていました。
確かにキューピットが現れると、フェルメールの絵の特徴でもある、静謐さが薄れてしまっています。(フェルメールの静謐さを一貫させるために、後のフェルメール研究者がフェルメールはこうあるべきという典型を作るために加筆したのかもしれません)
静謐さの観点から言えば、無いほうがフェルメールらしいとも言えますが、作者の意図とはずいぶんと違ったものになっていると感じます。つまり絵を鑑賞する側が感じるこの女性の心理なり気持ちは、キューピットのある絵の方に寄り添いたいと思いました。